機関誌『水の文化』48号
減災力

減災力

編集部

多発する自然災害

2014年(平成26)日本列島は、2月の関東・甲信・東北での大雪、8月の広島の土石流、そして9月の御嶽山の噴火、大型台風の上陸など、立て続けに災難に見舞われ、自然災害多発の年になってしまいました。被害に遭われた方には、心からお見舞いを申し上げます。

忍び寄る気候変動の影響

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書が、2013年(平成25)から公表されています。沖大幹さんはこれを、「自らの裁量でリスクマネージメントをしないと自分を守れない時代であることの自覚を促している」と読み解きます(「気候変動が促す、個によるリスクマネージメント」参照)。

その事実を直視し、 「治水安全度の低下を補うには、従来の河川改修やダム計画だけでは不可能で、治水政策を思い切って転換する必要がある」と指摘するのは高橋裕さんです(「治水哲学を涵養するもの」参照)。

氾濫危険区域の開発規制と大洪水時の浸水補償を考慮した一時的氾濫遊水地の設定など、水害に強いまちづくりを示唆します。

具体的には、今まで河道内に押し込めることを目標としていた洪水流の一部を、河道外へあふれさせることを含む〈総合治水対策〉への転換です。

大和川は、その実践例(「雨水を溜め、安全に流す知恵−大和川の総合治水」参照)。17の総合治水対策特定河川のうちの一つです。

水害は社会現象

気候変動だけでなく、都市の人口が増え、洪水を受け止めてくれていた田畑が失われたり、地面の被覆率が上がることも浸水リスクを大きくします。

つまり、水害の規模は降雨や台風の規模だけに左右されるわけではなく、土地利用が大きく影響を及ぼしているのです。自然現象だけが原因だったら有効な対策を立てることはできませんが、土地利用を考慮すれば被害を抑えることはできるはず。それは、水害に限らず、他の自然災害に関してもいえることだと思います。

公助・共助・自助の三位一体

自然災害の多発や、気候変動、都市化によって水害リスクが高まっている今、「自助・共助なくして命は守れない」という気運が芽生えています。

これまで、災害防除は公が大きくリードしてきました。その結果、災害への個々人の意識は薄れていく傾向にあったように思います。

2014年度の〈水にかかわる生活意識調査〉(ミツカン水の文化センター)で「不安に感じる水の災害」を聞いたところ、トップはゲリラ豪雨。河川の氾濫による浸水は第7位でした。公の治水対策が効を奏した成果で、治水安全度が高いこと自体は良いことですが、個々人の災害への意識が稀薄になるのでは困ります。

防災から減災へ

子どものころ、友人を水害で亡くした経験を持つ山本隆幸さんは、「大人になったら長沼から水害をなくしたいと、ずーっと思ってきた」と言います(「リバーネット21ながぬまの取組み」参照)。

しかし、自然災害を防ぐことはできません。原田憲一さんは「台風はあと2億年、地震は1500万年、梅雨は700万年、豪雪は8000年も続くのに、護岸の鉄筋コンクリートは50年しかもちません」(「自然災害と恵みの循環」参照)と言い、地学の視点から気象現象を解説することで、技術だけで対処しようとする考え方の限界を指摘します。

「自然災害は防げないけれど、災害で命を落とすことは防ぐことができる」ということに気づいた山本さんは、仲間たちと一緒に〈子ども水防団〉を中心とした活動を始めました。防災から減災への転換に呼応したこうした取組みは、減災力を向上させる効果が高いと思います。

減災力を高める

一方、東日本大震災の被災地となった宮城県石巻市では、地域の安全・安心を担保するとともに、廻船業で栄えた歴史を再確認した復興計画〈かわまちづくり〉が丁寧に進められています(「〈かわまちづくり〉で進む、石巻の復興計画」参照)。地域の独自性を認め合い、「石巻らしさ」をみんなで共有する姿勢には、共助につながる強さが感じられます。

前出の調査によると、ハザードマップの認知度は4割にも満たず、7割を超える人が「利用していない」と回答しています。東日本大震災が起きた直後には熱心に行なわれた水の備えも、軒並み低下していることがうかがえます。

人間は、残念ながら喉元過ぎれば熱さを忘れる生きものです。だからこそ、同じ悲劇を繰り返さないために、災害が起きても被災しない社会にしていくために、経験した人が語りつないでいくことがとても大切です。

自ら被災しながら、石巻の門脇地区で津波に耐えた土蔵を残した本間英一さん(「本間家の蔵が語る3・11震災」参照)や、〈子ども水防団〉の活動には、災害を経験した人の想いが託されています。減災力は、こうした多くの人の努力によって育まれていくように思います。



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