〈うちぬき〉という言葉をご存じですか? 愛媛県西条市には、鉄のパイプを15mから30mほど打ち込むだけで良質な地下水が湧き出てくる地域があります。そうした自噴井(じふんせい)や自噴水を〈うちぬき〉と呼んでいるのです。地下水が豊富なので、近年まで保全対策をとくに講じていませんでしたが、沿岸域における地下水の塩水化や、豊かであるがゆえに水への無関心といった問題が出てきました。今あるすばらしい水環境を後世に残すために、どのような取り組みが進められているのでしょうか。
西条市役所 生活環境部 部長
佐々木和乙(ささき たかつ)さん
西条市役所 生活環境部 副部長 兼 環境衛生課長
渡邊 信(わたなべ まこと)さん
西条市役所 生活環境部 環境衛生課 環境計画係 専門員 兼 係長
徳増 実(とくます みのる)さん
西条市役所 生活環境部 環境衛生課 環境計画係 主任
青野さや香(あおの さやか)さん
愛媛県西条市は、2004年(平成16)11月1日に旧・西条市、東予市、丹原町、小松町の2市2町が合併して誕生しました。2013年5月末時点で11万4026人(4万9491世帯)が住み、面積は約509.8km²と県内3位の広さです。
西条市の北には瀬戸内海が開けていて、南には標高1982mと西日本最高峰の石鎚山をはじめとする四国山脈がそびえています。海岸沿いには西条平野と周桑(しゅうそう)平野という2つの平野が広がっています。
典型的な瀬戸内海式気候のため、平野部は年間降雨量1400mmと雨が少ないですが、山間部にはその2〜3倍の雨が降ります。南の市境は分水嶺になっているので、降った雨はすべて西条市に流れてくることになります(図1)。
西条市の地下水資源が豊かな理由はその地形にあります。扇状地である西条市には、先端を加工した鋼管を15mから30mほど打ち込むだけで地下水が湧き出るという全国でも稀な自噴地帯が広がっているのです。西条平野は8.1km²、周桑平野は8.2km²の自噴域を抱えています(図2)。家庭用の自噴井は西条平野に2000本、周桑平野に650本あり、これとは別に灌漑(かんがい)用の井戸も多数存在しています。
自然の圧力によって地上に湧き出る地下水の自噴水や自噴井を、この地では〈うちぬき〉と呼んでいます。
特筆すべきは、旧・西条市の中心部は〈うちぬき〉をはじめとする地下水に依存しているため、上水道が敷設されていない区域があることです。図3は西条市の水道事業の概要を表しています。青色が「上水道給水区域」、緑色が「簡易水道給水区域」、オレンジ色が「専用水道給水区域」です。JR伊予西条駅付近など着色されていないエリアは、各家庭が〈うちぬき〉の水を使っているため上水道がありません。もちろん水道代は不要です(ただし家庭用汲み上げポンプを使う家庭は電気代が発生)。
そのため合併前の旧・西条市の上水道普及率は25%です。合併後の今も、市全体で50%しかありません。10万人規模の都市においては極めて珍しい数値です。しかも、上水道の水源もほとんど地下水でまかなっています。
下水道料金はどうなっているのかというと、「1カ月で1人580円」というこちらも珍しい人頭制です。下水道の課金は上水道の使用料に応じて決まるのが普通ですが、西条市のように上水道のない地域ではどれぐらい使ったかを計るのは不可能です。各家庭にメーターをつける手間とコストを考えると、人頭制の方が合理的だという市役所の判断もあったそうです。
西条市は〈うちぬき〉だけでなく湧水が多いことも特徴です。扇状地の末端から湧き出る泉は現在51カ所あり、市内の水路を潤しています。
2004年(平成16)に2市2町が合併したことによって、分水嶺である四国山脈を源とする加茂川(西条平野)、中山川と大明神川(ともに周桑平野)といった河川から河口までを1つの自治体で管理できるようになりました。
西条市役所 生活環境部の徳増実さんは「地下水を涵養(かんよう)する山間部、水を利用する平野部、流出する沿岸部がひじょうにコンパクトにまとまっていますので、河川の水と地下水の循環を把握し、総合的な水保全対策を行なうことができるのです」と話しています。
JR松山駅から特急でおよそ1時間。西条市を代表する駅、JR伊予西条駅のホームには〈うちぬき〉があります。また、駅から西に向かうと、「アクアトピア水系」と呼ばれ、水都・西条を象徴するような清流と景観が約2.4km続いています。新町川の改修にあわせて整備され、ゲンジボタルが舞う清らかな水、子どもたちの遊び場、木を活かした総合福祉センターや図書館なども配しています。市民はもちろん、観光客が水都・西条を体感できる散策ルートです。
西条市の地下水は3種類あります。1つめは〈うちぬき〉。市役所のすぐそばにある「うちぬき広場」は、1995年(平成7)に岐阜県で開催された「全国おいしい水コンテスト」で1位になりました。
2つめは湧水。アクアトピア水系の源泉「観音水」に代表されるような、川で涵養された伏流水が扇状地の末端で湧き出しているものです。
そして3つめは海底から清水が湧き出る「弘法水」です。アクアトピア水系から濠を経て海に向かう本陣川の河口にあります。江戸時代から明治時代は木枠で湧水溜まりをつくり、干潮時に住民や通りかかった船乗りが汲んでいたそうです。昭和30年代の航路整備でいったんなくなったものの、1979年(昭和54)の防波堤工事に伴う浚渫工事で当時の石碑を発見。「防波堤工事終了後に地域住民が『この辺りじゃないか?』と見当をつけてパイプを差し込んだところ、見事に水が出たのです。その人は亡くなってしまったので、どれほど深く掘ったのかなどは謎のままですが」と徳増さん。やわらかな口あたりの、とてもおいしい水でした。
3種類の地下水は、西条市東部の複雑な水理地質構造の影響で、まったく異なった水質を持っています。そのことは、後述する西条市・総合地球環境学研究所共同研究「千の水を採って」の調査によって裏づけられています。
西条は、とても農業が盛んな地域です。江戸時代以前、西条市の海岸線は現在のJRの線路付近だったと考えられています。干拓に適した干潟は、土木技術が発達した江戸時代には盛んに新田開発が行なわれました。1782年(天明2)に完成した禎瑞(ていずい)新田も、周桑・西条平野の前面の燧灘(ひうちなだ)に拡がる広大な干潟を干拓してつくられたものです。
水田の面積は4058haと県内一の上、裸麦(はだかむぎ)、あたご柿、七草は全国1位の出荷量を誇ります。臨海部の埋め立て地には、上質な水を必要とする半導体や飲料など2630社が工場を設置しており、四国でも有数の工業集積地となっています。
驚いたのは「用水路のない水田」があること。市役所西側の古川地区や喜多川地区では、田んぼの中にある〈うちぬき〉から地下水が直接注ぎこまれていました。バルブを閉めれば水は止まりますが、出しっ放しにしている〈うちぬき〉もあります。そのまま飲める良質な地下水を注ぎ続けるのは、もったいないと思うのですが……。
西条市役所 生活環境部の渡邊信さんは「止めている人もいますが、ずっと出し続けていないと出ないようになってしまう、水道(みずみち)が変わってしまうと考える人もいます。止めたことでどうなるのかは、まだはっきりとわかっていません」と説明してくれました。
とはいえ、手をこまぬいてばかりではありません。徳増さんたちは2009年(平成21)と2010年(平成22)に、バルブを閉めたらどれほど節水になるかを探るため、自噴域の全世帯にアンケート調査を行なっています。「本音を言えば、使わないときは水を止めてほしいですね。ただし、冬も水を出しっ放しにすることで〈ふゆみず田んぼ〉となり、生態系には良い影響があります」と徳増さんは明かします。
市役所の北東に広がる朔日市(ついたち)新田。灌漑用井戸の揚水機のパイプからほとばしるように地下水が用水路に流れていきます。約100haの水田をカバーしているそうで、徳増さんは「今はパイプ1本ですが、6月になると2本とも開けます」とのこと。1本ですら圧倒的な水量です。これほどの量を汲み上げても、地盤沈下はないそうです。ちなみに海岸に近い地域ですが、地盤が砂礫質のために地震の際の液状化もあまり心配ないそうです。
加茂川右岸の上喜多川地区には、〈うちぬき〉の水を湛えた洗い場があります。1日の作業を終える夕刻には、野菜や泥のついた軽トラック、道具を洗うために農家の人が集まってきます。この日も万能ネギ、小松菜、大根を洗っている農業者が数名いました。「収穫物は毎日ここで洗っているよ。水が冷たいから鮮度を保つのにいいんだ。大根は味が甘くなるね」と教えてくれました。早朝に出荷前の野菜を洗う人も多いそうです。
加茂川と中山川の間に広がる水田地帯にある「加茂川左岸うちぬき公園」では、1人の男性が〈うちぬき〉の水を汲んでいました。「10日に1回は汲みに来るかな。お茶と炊飯と味噌汁に使っているけど、味が良いんだよ」。佐々木さんは「ここの水は雑菌がないので、冷蔵庫で保管しておけばかなりもつのです」と教えてくれました。
中山川を越え、周桑平野にある「泉掘(いずんぼり)」に行きました。泉掘は、東予地区、丹原地区、小松地区で農業用井戸として使われてきました。生のクロマツの丸太を組みながら、中山川の伏流水を探り当てるまで掘り下げていったものです。西条市役所 生活環境部の佐々木 和乙さんは合併後、車に自転車を積み、以前は市域外だった周桑地域を走り回って調査したそうで、泉掘もそのときに発見したそうです。
西条市の地下水はどのような構造になっているのでしょうか。
旧・西条市は合併前の1996〜1999年度(平成8〜11)に地下水資源調査を行ないました。きっかけは前市長の伊藤宏太郎さんが「西条市は水の都というけれど、地下水はどれくらいあるのか」と疑問を呈したことです。佐々木さんは「どれほどの人口なら支えきれるのか、工業用水の使用量はどこまで増えても大丈夫なのか。そういう判断ができるデータが欲しかったのです」と語ります。あるとき急に地下水位が下がってしまった、気づいたら地下水が汚染されていた、というような事態を避けるために、予測できるだけのデータを集めなければいけないと考えたのです。また、合併後の2007〜2012年度(平成19〜24)にも2回目の調査を行なっています。2度にわたる調査によってさまざまなことが明らかになりました。
西条市には中央構造線の石鎚断層が南にあり、岡村断層と小松断層、さらに小松断層から続いていると思われる推定断層があります。涵養域は、東から西に向かって、西条平野の加茂川、周桑平野の中山川と大明神川があります。地下水の埋蔵量は推定で7.2億トン。興味深いのは、それぞれの流域で地下水の流れが異なることです。
加茂川流域には深い窪みがあり、そこに地下水が溜まっていると考えられています。粘土層が横たわっていますが、これがあるために山のほうから流れてくる深層地下水の圧力が維持されて、粘土層を打ち抜くと圧力で水が自噴するという仕組みです。粘土層の上には浅層地下水があり、湧水や灌漑用の揚水として利用されています。
中山川流域には加茂川のような大きな窪みはありませんが、同じように粘土層があり、パイプを打ち込むと被圧した水が出てきます。
大明神川流域は一見、中山川の構造に似ていますが、天井川(砂礫が堆積することで川底が周辺よりも高くなった川のこと)として有名です。河床の下をJRのトンネルが通っているので、電車は川の下を走っていることになります。
流域によって構造や条件はさまざまです。また、降水量によって地下水の量が大きく左右されることもわかりました。
西条市が2度にわたり地下水の資源調査を行なったのは、帯水層(地下水によって飽和している地層)の位置と規模、そして地下水の涵養や流動などを明らかにするためでした。今から10年ほど前、旧・西条市の自噴域にある一般家庭で、地下水の塩分濃度が上がる「塩水化」が起こり、簡易水道給水区域に急遽組み込んだという経緯もあります。
西条市は、文部科学省・総合地球環境学研究所(地球研)と研究協力を結び、「千の水を採って」というプロジェクトを実施しました。2010年(平成22)2月から3月にかけて、各家庭で使われている地下水を市内1023地点で採取。そして、地球研の分析機器を用いてミネラル成分や微量元素、安定同位体(注)などを測定。水質項目について地図を作成しました。
注:安定同位体分析
原子番号(陽子数)が同じで,質量数(陽子と中性子の数の和)が異なる物質を安定同位体といい、その割合によってどこを起源とするかを解析する方法
すると沿岸部で塩化物イオンが測定されました。海水の影響を受けて地下水の塩水化が進んでいることがわかったのです。実際に塩水化が進んでいる地域にある家で水を飲ませてもらいました。どことなくしょっぱい水でした。塩水化は昭和時代に干拓された地域に多く見られるそうですが、地下水だけに事は複雑で、隣り合った家でも片方は塩水化し、もう片方はなんら問題ないというように影響がまだら模様に表れているそうです。また、1軒ごとに状況が異なるだけでなく、降雨量にも左右されるのだそうです。
塩水化の原因は複合的なものと考えられていますが、一因として挙げられるのは農業用水。自噴域にある水田は加茂川からの取水も利用できますが、たいていは〈うちぬき〉か灌漑用井戸からの揚水を用います(つまりどちらも地下水)。春になると地下水を大量に汲み上げて田に水を入れますので、その時期は地下水位が下がります。
2007年(平成19)と2008年(平成20)の地下水利用量(西条平野)のグラフ(図9)を見ると、5月から9月の灌漑期に農業用水量が急増しているのがわかります。特に2007年は渇水で川から取水があまりできなかったので、2008年に比べると地下水の利用の多さが目につきます。それに対して家庭用の〈うちぬき〉や工業用水の利用量は一定です。農業用水の変動がいかに大きいかわかります。
図10は、市塚地区という東寄りの沿岸部の地下水位と電気伝導度(塩化物イオン濃度に代わる指標)を表したものです。地下水位が下がるとその2〜3カ月後に塩分濃度がグッと上がるのがわかります。ただし、川に水がたっぷり流れていて地下水位が保たれていれば、塩分濃度はそれほど上がりません。つまり、「流入する水の量が減ると海水の影響を受けて塩水化する」という関係があるのです。
徳増さんは「塩水化を防ぐためには加茂川の流れを維持することが大切なことがわかりました」と説明してくれました。2度にわたる科学的調査結果をもとに、水源から河口までを擁する西条市は、その特徴を活かして総合的な地下水保全計画をつくり、水の都の永続を進めていこうとしています。
塩水化を防ぐ役割を担う加茂川ですが、訪問時は「瀬切れ」(河川の流量が少なく、水が途切れてしまうこと)の状態でした。河口から5kmほど遡った水管橋とメロディ橋(伊曽乃橋[いそのはし])の間で、流れが失われています。
瀬切れがメロディ橋の真下まで後退すると、水の自噴が止まる地域が出る恐れがあるそうです。佐々木さんたちは加茂川の流量と地下水位のデータも計測しています。「『ここまでは大丈夫』という感覚的なものではなく、データとして明確にしたいです」と言う佐々木さん。これも水資源を後世に残すための重要な調査です。
加茂川の流水が減ることは、湧水にも大きな影響を与えています。加茂川で涵養された伏流水が扇状地の末端で湧き出している「観音水」の水位は明らかに低い状態でした。本来の湧出量は1〜2万トン/日にのぼるそうです。
西条市は市内各所で地下水のチェックを行なっています。神拝(かんばい)小学校をはじめとする36カ所で地下水位を測っているほか、91カ所で水質をチェック。その費用だけで相当なものですが、市民が安全でおいしい水を毎日飲むためには必要なことです。
佐々木さんは「地下水の流れを把握しておかなければ、何かあったときに対応できません。見えないものを『見える化』することが大切です。今まで地下水が汚染されたことはありませんが、仮に薬品を積んだタンクローリーが加茂川の上流で転落したらどうするのか。水道課ではなく、環境衛生課が地下水の管理を担当しているのはそのためなのです」と語りました。
豊富な地下水資源を有する西条市では、九州北部から関東地方の各地で給水制限が行なわれた1994年(平成6)の渇水でも水は涸れませんでした。そのため、翌年からは西条市に住居を求める人が急増し、マンションは完成前に完売するほどの人気に。自噴域ならば高層マンションでも受水槽などの給水装置を用いずに〈うちぬき〉の水をそのまま利用できます。夏でも冷たい〈うちぬき〉の水に慣れている子どもたちは、修学旅行などで市外に出かけると水の違いに戸惑い、「冷たい水じゃないとハミガキができない」と言う子もいるそうです。それは西条市への愛着にもつながるはずです。
ただし、住居や商業施設が新たにできる代わりに水田は減ります。それは洪水調整機能と地下水の涵養機能が喪失につながります。都市化は地下水のバランスを崩し、塩水化をもたらす可能性が大きいのです。
西条市は、地下水の涵養量を維持することが塩水化の解決策と考えています。「地中にしみ込む量が減っているから塩水化しています。ならば山や森の地下水をもっと涵養すればいいはずです」と言う佐々木さん。
そのためには、市民と企業の協力は不可欠です。
2度にわたる地下水資源の調査は西条市独自の予算で行なったものです。1回目は約7100万円、2回目は約1億1500万円、合計1億8600万円ほどをかけています。地下水資源の調査は多くの場合、国(国土交通省)が行ないますが、西条市はすべて「自前」で実施しました。佐々木さんは「なぜ市単独でできたのか。それは水の魅力でまちづくりを進めてきて、企業も人も来てくれたからです。それがなかったら、2度も調査はできなかったでしょう」と言います。
水の魅力は今も新しい事業を興しています。その1つが加茂川左岸うちぬき公園のある神戸地区で進められている「西条農業革新都市」農場です。住友化学株式会社、西条市農業協同組合などが出資して設立された株式会社サンライズファーム西条が、GPSを用いた無人耕耘機など先端技術を導入し、約5haの農地で野菜を栽培するという六次産業化への取り組みで、日本経団連の「未来都市モデルプロジェクト」に指定されています。
市内の既存の企業との連携も、従来以上に重視していく考えです。水を用いた事業を行なう企業には、市内の山林を所有もしくは管理することを期待しているのです。「工場立地法の緑地面積率(西条市は15%)の緩和などを通じて、お互いにメリットがある関係が築けるといいですね」と佐々木さん。
また、市民については、水に不自由な思いをしていないがゆえに節水や水の涵養に対するモチベーションを高めていくのは難しいですが、家庭での節水を促し、水源涵養機能を高めることにつながる間伐ボランティアを募るなど、具体的な行動を提示していく予定です。次代を担う子どもたちへの環境教育も必要になりそうです。
クラインガルテンなど体験を加味した長期滞在型の観光戦略も必要だと考えています。佐々木さんは「西条まつりは有名ですが、祭は数日で終わってしまいます。しかし水が観光資源ならば365日いつでも受け入れることができますからね」と話します。
市民と企業の意識を変える方法は、もう1つあるのではないでしょうか。コウノトリの保護・繁殖・共生事業で有名になった豊岡市の中貝宗治市長がとった「外圧」手法です。中貝市長はメディアを利用してコウノトリ構想を広めました。それを知った市外の人が市民に「豊中市はコウノトリを呼び戻すらしいね」と話す。言われた市民は「えっ、そうなの?」と驚きます。市民の意識がコウノトリと身近な自然環境に向くまで、しつこいほどそれを繰り返したそうです。
西条市を訪れて、私たちは豊富な水資源に驚きました。西条市の地下水を全国的に広めていくことで良い意味での「外圧」をかけ、市民や企業の意識を変えることはできるのではないでしょうか。
そもそも西条市は「工場を誘致して水が涸れた」という事態に陥らないように、ゆっくりとしたスピードで成長してきました。今も地下水が豊かなのは、そうした堅実なまちづくりを推し進めてきた市役所の存在が大きいといえます。
「生まれたときからここに住んでいる人は、水がほとばしる環境が当然のことだったので保全らしい保全はしてきませんでした」と徳増さんが言うように、「あることが当たり前」だった西条市の地下水。「手遅れにならないうちに」(佐々木さん)という危機感をもとに、河川から河口までの全域を1つの自治体で管理できるメリットを活かし、市民と企業との連携によって意識的な水保全対策を目指しています。
(2013年5月23〜24日)