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コロナ後の世界をどう生きるか?「水」の視点から

ウガンダ・カンパラ市のカスビ食品市場に設置された共同の手洗い場。これはコロナウイルスの蔓延を抑制するための緊急対応の一環で、石鹸と安全な水(塩素系)を備えている ©WaterAid/ James Kiyimba

ウガンダ・カンパラ市のカスビ食品市場に設置された共同の手洗い場。これはコロナウイルスの蔓延を抑制するための緊急対応の一環で、
石鹸と安全な水(塩素系)を備えている ©WaterAid/ James Kiyimba

「水」の現場を取材し、そこに潜む問題点を新聞や雑誌、インターネット、書籍などでわかりやすく解説する水ジャーナリストの橋本淳司さん。自治体や学校、企業、NPO、NGOと連携しながら、「みずから考える人」「水を語れる人」を育てようとしています。新型コロナウイルスの感染が世界各国で広がるなかで際立つ「水」の大切さ、そして気候変動に伴い頻発する「水害」への備え、そして経済活動を担う企業が今後注意すべき「水リスク」などについてお聞きしました。

橋本 淳司さん

水ジャーナリスト
アクアスフィア・水教育研究所 代表
武蔵野大学客員教授
橋本 淳司 (はしもと じゅんじ)さん

1967年群馬県館林市生まれ。学習院大学卒業後、出版社勤務を経て現職。国内外の水問題とその解決方法を取材し、各種メディアで発信。政策提言も行なっている。NPO法人 WaterAid Japan、NPO法人 地域水道支援センターで理事を務める。Yahoo!ニュース 個人オーサー(2019オーサーアワード受賞)。『水がなくなる日』『67億人の水』『日本の地下水が危ない』など著書多数。

バングラデシュでの体験から水ジャーナリストに

私は「水ジャーナリスト」という肩書で活動していますが、何をしているのかぱっと想像できる人はほとんどいません。現在の活動は、自治体や高校などで水をテーマにした授業を行なうほか、水にまつわる現場を取材してメディアで解説するといったことが中心です。「Yahoo!ニュース」でも水のことを中心に記事を書いています。

子どものころは利根川流域で育ちましたが、小学校4年生までは川が怖くて橋も渡れないような意気地なしでした。でも5年生のときに、渡良瀬川上流の水が青いことに興味をもち、あちこちの水を手ですくってはじっと眺めていました。青い湖の水もどす黒く濁った汚れた川の水も透明なので、不思議だなと思いました。そこから少しずつ水辺やカヌーなどが好きになっていきました。

水専門のジャーナリストになりたいと考えたのは、記者として訪れたバングラデシュでの体験です。バングラデシュでは水場=井戸の周りで女性たちが楽しそうにおしゃべりをしていて、井戸が生活用水の範囲を超えて、地域コミュニティの中心になっていました。しかし、その井戸水からヒ素が検出されると聞きました。なぜヒ素汚染された水を使うのかと現地の人に尋ねたところ、「それしかないから」という答えが返ってきたのです。

そのことが健康被害をはじめとする人々の暮らしに大きな影響を与えていると知り、「水の問題」に特化した仕事がしたいと考えるようになりました。

水からヒ素が検出されたバングラデシュの井戸。橋本さんの今の活動の原点となった(提供:橋本淳司さん)

水からヒ素が検出されたバングラデシュの井戸。橋本さんの今の活動の原点となった
(提供:橋本淳司さん)

新型コロナウイルスにおける水と衛生の格差

今、世界は新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)によって大変な状況に陥っていますが、これにも水の問題がかかわっています。

毎年3月22日は、国連が定めた「世界水の日」です。今年は新型コロナの感染拡大を抑えるため、「水と石鹸による定期的な手洗いを忘れないで」というメッセージを国連が打ち出しました。私たち日本人にとっては当たり前のことかもしれませんが、世界にはそれができない人々がいます。

きちんと整備された水道が自宅などの敷地内にあり、必要に応じて利用できる人は53億人で、世界の人口の約71%です。一方で、水と石鹸を使える手洗い設備が自宅にない人は世界に約30億人いて、特にアフリカのリベリアやエチオピア、マラウイといった国々は、90%以上の家庭に手洗い設備がありません。これらの多くの人々は、水質など含めきちんと管理されていない井戸や川、池などから直接水を飲むといった不衛生な状態にあります。私が以前訪問したエチオピアの集落では、水汲み場まで歩いて行き片道2時間、往復4時間もかかるので、水汲みに行く子どもたちは手洗いどころか学校も疎かにしています。さらに後発開発途上国(注1)では、手洗い設備を備えていない保険医療施設が55%もあるといわれています。

こうした地域で新型コロナの感染がいったん広がると、収束するのはなかなか難しい。実際の感染拡大地域をみても、手洗いなどの衛生設備が行き届かない場所にやはり集中しています。アフリカではすべての国で感染者が増加中で、このままの状況が続けば1年間に19万人が命を落とす可能性があるとWHOは危惧しています。

このようななか、開発途上国の水と衛生を支援する国際NGOウォーターエイドでは、オンラインでノウハウを共有し、現地の人々に手洗い設備をつくってもらうという支援に切り替えています。海外渡航が難しくなったことで、国際支援の方法も変わってきています。

(注1)後発開発途上国
国連開発計画委員会(CDP)が認定した基準に基づき、国連経済社会理事会の審議を経て、国連総会の決議により認定された特に開発の遅れた国。現在47カ国ありサハラ以南のアフリカに集中している。

  • 祖母と水を汲んで、歩いて持ち帰る8歳の少女。安全な水をいつでも手に入れられるしくみはまだまだ足りない ©WaterAid/ Eliza Powell

    祖母と水を汲んで、歩いて持ち帰る8歳の少女。安全な水をいつでも手に入れられるしくみはまだまだ足りない ©WaterAid/ Eliza Powell

  • 保護されていない水源から水を集める少年たち。地球上のすべての人が清潔な水を利用できるようにしたい © WaterAid/ Eliza Powell

    保護されていない水源から水を集める少年たち。地球上のすべての人が清潔な水を利用できるようにしたい © WaterAid/ Eliza Powell

  • 祖母と水を汲んで、歩いて持ち帰る8歳の少女。安全な水をいつでも手に入れられるしくみはまだまだ足りない ©WaterAid/ Eliza Powell
  • 保護されていない水源から水を集める少年たち。地球上のすべての人が清潔な水を利用できるようにしたい © WaterAid/ Eliza Powell

日本の水道で優先すべきこと

日本はというと、衛生設備こそ整っているものの、別の問題があると私は考えます。コロナ禍において、生活支援の目的で多くの自治体が水道料金の減免措置を実施しています。水道料金は設備費や人件費を給水人口(市や町で暮らしている人の数)で割って算出されるので、自治体によって差が出ます。そのため、人口が減少している地方などは必然的に料金が高くなるのですが、今後水道料金はどんどん上がっていくと予測されています。

その要因が、設備の老朽化です。水道管の裏に鉄分などが付着して劣化すると、漏水したり、破損したりするので見直す必要があるのですが、財源不足で設備更新がなかなか進んでいません。しかも厚生労働省の計算によると、総延長66万㎞のうち、更新が必要な水道管をすべて取り替えるには130年かかるそうです。

これから到来するといわれている新型コロナの第二波、また災害の多い日本においてリスク管理を行なう意味でも、私は水道料金の減免より、積極的に設備投資していくことの方が重要ではないかと思っています。

全国水道料金ランキング 20立方m当たりの料金(2019年4月1日)

全国水道料金ランキング
20立方m当たりの料金(2019年4月1日) 日本水道協会「水道料金表」より

気候変動対策にも密接にかかわる水

安全かつ衛生的な水があることが新型コロナの感染拡大を防ぐ対策になりますが、今年の世界経済フォーラムでグローバルリスクとして報告された気候変動にも、実は同じ対策が必要だといえます。

SDGs(持続可能な開発目標)の中で、水と衛生への対策は6番「安全な水とトイレを世界中に」、気候変動への対策は13番「気候変動に具体的な対策を」と分かれていますが、水と気候変動は緊密な関係にあり、この2つは同時に達成すべきゴールです。

水の多い地域では、気温が上がると空気中の水蒸気量が増え、湿度が高くなります。そうすると強い雨が頻繁に降り、豪雨災害を引き起こします。水の少ない地域では、気温が上がることで土に含まれる水分が蒸発しやすくなり、乾燥が進み、水不足や干ばつがさらに深刻化します。

台風や大雨など、気候変動の影響を受けている日本で、社会生活が長期間ストップするほどの事態にならないのは、上水道や下水道が整備されているからです。つまり、上下水道インフラの未整備な国や地域ほど気候変動のダメージを受けやすく、洪水や渇水から立ち直るのにも時間がかかってしまうということです。

ウォーターエイドの報告書では、世界の貧しい国のほとんどが気候変動への対応力が弱く、それに必要となる安全な水へのアクセスレベルが低いことが指摘されています。安全な水の確保は新型コロナの感染拡大だけではなく、気候変動への対策、ひいては人々の命を救うことにつながるのです。

度重なる災害にハザードマップの活用を

日本ではここ数年、水害が多発しています。これは気候変動、気温や海水温の上昇が原因と考えられています。しかし、災害に対する知見は広がりにくいという問題があります。これはある地域で壊滅的な被害を受けても別の地域では無害なように、災害の経験を人々が共有しにくいためです。この問題はきちんと考えていく必要があり、何をすべきかというと、ハザードマップの作成と更新、土地利用の見直しに尽きます。なかには過去の災害経験がないことでハザードマップをつくっていない自治体もあり、非常に心配です。

2019年(令和元)10月に東日本を襲った台風19号ですが、被害が発生した場所には特徴があります。冠水した北陸新幹線の車両基地「長野新幹線車両センター」は、千曲川の支流である浅川のほとりに位置しています。この場所は、千曲川の河岸段丘を浅川が削り、周囲よりも低くなっています。地元の人は「水害常襲地」と言い、ハザードマップでも4m以上の浸水が想定されている地域でした。

今年もすでに各地で豪雨災害、土砂災害が発生しています。ここでも地形との関連が指摘されています。熊本県の球磨川流域は、降った雨が人吉盆地に集中する構造になっています。流域内には複数の河川がありますが、その多くが人吉盆地で本流に合流します。とりわけ川辺川は、支流とはいえ本流と上流域の規模がほぼ同じです。また、人吉盆地を流れる球磨川の河床勾配は小さく、さらに人吉盆地を抜けると狭窄部(きょうさくぶ)といって川幅が極端に細くなります。狭窄部では川の流れが滞りやすく、水害が起きやすいのです。

また、病院や福祉施設、災害時に避難所となる学校などは、本来開発ができない市街化調整区域(注2)に建てることが認められており、全国的にみても過去に田んぼだった低地や後背低地(注3)に建設されることは珍しくありません。川と川の合流地点も注意が必要です。豪雨によって本流の水位が上昇し、もともと本流に流れ込むはずだった支流の水が流れ込めず逆流する「バックウォーター現象」が起きることで、氾濫する危険性があります。今後、豪雨や巨大化する台風による水害がさらに増えると考えられるので、土地利用のあり方を見直すことは必須といえます。

なお、もし地図に興味をおもちなら、国土地理院の地形分類図にアクセスしてみてください。自分の住んでいる土地の成り立ちや自然災害リスクを確認できます。

(注2)市街化調整区域
市街化を目的としていないため、原則として開発行為や都市施設の整備が行なわれない、つまり新たに住宅や商業施設を建てたり増築することを抑える地域。

(注3)後背低地
自然堤防や砂州などの背後にある低地。細粒土の堆積物などからなる軟弱な地盤で、周囲よりも低くなっている。

長野市のハザードマップ。2019年の台風19号により浸水した北陸新幹線の車両基地「長野新幹線車両センター」は洪水浸水想定区域に位置している

長野市のハザードマップ。2019年の台風19号により浸水した北陸新幹線の車両基地「長野新幹線車両センター」は洪水浸水想定区域に位置している
(長野市のハザードマップおよび国土地理院基盤地図情報をもとに編集部作図)

サプライチェーンを含む水利用の課題

豪雨災害や水不足、あるいはこの先新型コロナと共生する世界を考えると、企業によるサプライチェーン(国をまたぐ材料・部品の調達、製造、配送、販売の流れ)の見直しが必要です。なかでも国際的に問われているのが、サプライチェーンを含む企業の水利用のあり方です。世界では水不足で生産活動ができなくなるケースが頻発し、水は経営においても重要課題となっています。

欧米企業では、「サプライチェーン全体の水リスク」を把握する体制を強化しており、企業のトップは生産拠点を考える際に必ず水リスクを考えます。水の量や質といった物理的リスク、排水規制などの規制リスク、地域住民などからの評判リスク、こうした水リスクを見込んだ意思決定はもはや常識で、投資家も企業の水リスクに注目して投資活動を行ないます。

イギリスのデパートの例ですが、水リスクを考えてサプライチェーンを見直したところ、これまでスペインで栽培していたオレンジを南アフリカでの栽培に切り替えました。それは、スペインの水不足により今後オレンジの栽培ができなくなると見込んだためです。当然、物流を考えるとエネルギーコストは南アフリカの方が高いのですが、長い目でみて水リスクを回避する判断が必要です。

日本の企業も水リスクを考えなければいけません。日本の食料自給率(カロリーベース)は約40%で、その多くを海外からの輸入に頼っています。農作物をつくるために必要な水をバーチャルウォーター(仮想水)といいますが、例えば肉じゃが1皿をつくるのに、約1515Lものバーチャルウォーターを使っています。材料の豚肉は、国産といえどもトウモロコシなど海外の飼料で育てるため、養豚には相当量の海外の水が使われている、つまり水も一緒に輸入していることになります。

それと比較してトイレや風呂、炊事など私たちが日本で日常生活を送るために使う水は、1日1人当たり平均289Lといわれています。肉じゃが1皿よりもはるかに少ないことを考えると、食料の生産にはそれだけ多くの水が必要なのです。

ただし、その主な輸入相手国である中国やオーストラリア、アメリカは近年水不足が深刻です。さらに新型コロナの感染拡大にともない、食料輸出国は自国内の安定供給を優先するために輸出規制を始めています。ロシアやインド、ベトナムは米の輸出をやめました。こうなると、日本国内である程度ストックしなければなりませんが、それには水が必要です。

  • スペインの水不足をリスクと捉え、オレンジの生産地を南アフリカに切り替える。サプライチェーンにおける「水リスク」回避の事例だ

    スペインの水不足をリスクと捉え、オレンジの生産地を南アフリカに切り替える。サプライチェーンにおける「水リスク」回避の事例だ
    (橋本淳司さんの著書『いちばんわかる企業の水リスク』[誠文堂新光社 2014]より転載/描画:加藤マカロンさん)

  • 「肉じゃが」の仮想水使用量

    「肉じゃが」の仮想水使用量
    ※しらたき1袋はこんにゃく1枚と計算。調味料は除く
    ※仮想水については環境省のWeb「仮想水計算機」を用いて算出
     https://www.env.go.jp/water/virtual_water/kyouzai.html
    (提供:橋本淳司さん)

  • 日本における1日1人当たりの水使用量

    日本における1日1人当たりの水使用量 (出典:国土交通省「水資源白書」平成26年版)

  • スペインの水不足をリスクと捉え、オレンジの生産地を南アフリカに切り替える。サプライチェーンにおける「水リスク」回避の事例だ
  • 「肉じゃが」の仮想水使用量
  • 日本における1日1人当たりの水使用量

「流域」単位で考える水マネジメント

かつて人件費の安さなどから海外に拠点を移した企業が、新型コロナの影響で国内に回帰するケースは今後増えるでしょう。これによりサプライチェーンの効率性は失われますが、ITインフラの整備やテレワークの浸透で物理的な移動のハードルが下がることは、生産性のアップにつながります。同時に都市部への一極集中が崩れ、あらゆるものが地方への分散に切り替わるともいわれています。「これからは地域に根ざした資源の循環利用が必要だ」と政治家も言いはじめました。

そこで、地域単位の水利用ということで考えたいのが、「流域」での水マネジメントです。降った雨は地表や地中を流れて1本の川に流れ込みますが、雨が流れ込む範囲をその川の「流域」といいます。

流域で水マネジメントをするメリットは二つあります。一つ目は利水です。生産活動には水が必要ですが、人工的な手段で得るのは難しくコストもかかるため、立地する流域の水を使います。二つ目は治水です。災害は流域単位で発生します。今後も気候変動により洪水が頻発する可能性があるので、流域の地形や水の動き、自然災害リスクを把握して、流域ごとに対策することが肝心です。

これらのことから流域を一つの生活圏と考え、そこに所属する自治体が連携しながら利水と治水、生活や生産活動を行なっていく。これはとても合理的で、持続性のあることだと思います。

水は化石燃料とは違い、うまく回していくことができる循環型の資源です。これを踏まえてどんな活用法があるかというと、水力発電や小水力発電、地下熱などを使って水からエネルギーをとることができます。また、水田には地下水を育む機能があり、食べ物をつくりながら水を増やす、豪雨の時には一時的に水を溜めて川に流れ込む水の量を抑えるといったことが可能です。さらに森の土壌には、保水能力や浄水能力があります。森を皆伐したり手入れしないで放置すると保水力が下がり、水害につながる危険性があるので、流域の生態系を保全していくことがとても大事です。

持続可能な流域のためにできること

では、具体的にはどんなことができるでしょうか。
熊本県では減ってしまった地下水を増やすために、稲刈り後の田んぼに水を張って地下に溜める涵養事業を行なっています。この費用は、熊本の水を使っている企業が負担しています。

湿地の保全でいえば、昨年の台風19号で渡良瀬川下流部にある渡良瀬遊水地が大活躍しました。調整池は普段は湿地で希少動物の住処になっていますが、雨で川の水が増水すると、その一部を溜めて下流に流れる量を少なくします。台風19号のときはここに大量の濁流が流れ込み、一時的に溜めたことで被害が少なかったといわれています。

雨水活用も重要です。雨水は生活用水に利用できます。仮に東京都内のすべての一戸建て住宅が屋根に降った雨を溜めた場合、1億300万トンの水が確保できるのです。これは利根川水系の矢木沢ダムが東京都に供給している水量を上回ります。

また、市町村が主導で行なう森林保全を目的に、昨年から森林環境譲与税(注4)というものが自治体に分配されています。こうしたものをぜひうまく使って、住民も一体となった流域内の森林保全活動を通じて水害の抑制などに役立ててほしいと思います。

これからの治水の考え方として、降った雨をゆっくり流す、川はあふれることを前提に対策する、ということが必要になってきます。というのも、今後急激かつ大規模な護岸整備は不可能だからです。ここ数年で雨の降り方が変わったことで、水を完全に抑え込むことはできなくなってきました。「川をあふれさせる」というと少々危険に聞こえるかもしれませんが、そうした場合に遊水地や田んぼ、雨水タンクのようなものが流域単位であると、非常にありがたいものになります。

このような話をすると、「私たちに今できることは上流域の保全活動ですか?」と皆さんによく聞かれるのですが、もう少し簡単にできることがあります。それは、食の地産地消です。

例えば私たちがお米を買うことで農家は潤い、田んぼが保全されます。田んぼには地下水の涵養機能と治水機能があるので、流域内のお米を食べることは田んぼを守るだけでなく、私たちの生活を守ることにもつながっていくのです。地域の産業を応援することで、持続可能な流域はつくられていきます。

水不足、災害、新型コロナ――。このような時勢に、私たちも企業も今一度、水のあり方を考え直す必要があるのではないでしょうか。

(注4)森林環境譲与税
森林現場の早期課題対応に向け、森林経営管理制度導入に合わせて2019年より市町村や都道府県に譲与されている。分配方法は自治体の森林面積や林業従事者数などに応じて決まり、森林整備、間伐、林業に携わる人材の育成などに使われる。2024年以降は、森林環境税として国民一人当たり1000円を住民税に上乗せして徴収されることが決まっており、いったん国へ納められたあと、森林環境譲与税として国から都道府県と市町村に分配される。


降った雨をゆっくり流す、あふれさせる
橋本さんが提案する「これからの治水の考え方」(橋本淳司さんの著書『いちばんわかる企業の水リスク』[誠文堂新光社 2014]より転載/描画:加藤マカロンさん)

降った雨をゆっくり流す、あふれさせる
橋本さんが提案する「これからの治水の考え方」
(橋本淳司さんの著書『いちばんわかる企業の水リスク』[誠文堂新光社 2014]より転載/描画:加藤マカロンさん)

(取材日 2020年7月6日/リモートインタビュー)

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関連リンク

第8回里川文化塾「浦安市の震災と上下水道」
http://www.mizu.gr.jp/bunkajuku/houkoku/008_20120915_urayasu.html

第15回里川文化塾「拡がる雨水利用」
http://www.mizu.gr.jp/bunkajuku/houkoku/015_20131018_amamizu.html

第17回里川文化塾「鶴見川の洪水対策~都市河川の治水施設を考える~」
http://www.mizu.gr.jp/bunkajuku/houkoku/017_20140523_tsurumigawa.html

水の風土記 水の文化 人ネットワーク
「農業が自立しなければ国民は不幸になる~農産物直売所「みずほの村市場」の挑戦~」
農業法人株式会社みずほ代表 株式会社ELF代表取締役 長谷川 久夫さん
http://www.mizu.gr.jp/fudoki/people/053_hasegawa.html



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