機関誌『水の文化』39号
小水力の底力

小水力の底力

編集部

利用可能包蔵水力

前回、私たちが小水力発電を特集したのは(『水の文化』28号)、CO2削減のための救世主になり得るのでは、という期待からだった。自然エネルギー推進の中で、小水力発電の評価が不当に低いことも気がかりだった。急峻な地形を持ち、豊富な水量を誇る日本で、そのポテンシャルはもっと有効に利用されて然るべき、という思いは、水系ごとに算出された〈利用可能包蔵水力〉を足し合わせると2003年(平成15)の民生用電力使用量の65%をまかなえるだけのエネルギー量になる、という千葉大学の倉阪秀史さんの研究によって勇気づけられた。一つひとつは国のエネルギー政策を左右するような存在ではないが、ベースフローを水力メインにしようという意気込みで取り組めば、不可能ではあるまい。デンマークの国土にあまねく広がる風力発電所を見たら(「《地産都消》都市の役割」参照)、持てる資源を最大限使わずにいて、初めから無理というのはもったいないというものだ。

CO2削減という観点からだけでいったら、原子力発電に太刀打ちできるはずもなく、削減目標を掲げながらも当時は積極的な取り組みはなされなかったように思う。また、原子力の平和利用は、安全性さえ担保されれば、経済的にもCO2削減にとっても有益だという政策に、多くの人が同調する風潮もあった。

今回の原発事故は、その流れを一変させることになる。2011年(平成23)8月26日に成立した「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」では、固定買取制度も保障され、再生可能な自然エネルギーは後押しを得た。来年春には買取価格も決められる見通しだ。

真実は?

自然エネルギーにとって、まさに正念場ともいえる状況になっているが、変動が大きく「雑な電気」と嫌がられたり、効率が悪いから経済の足を引っ張るといわれたり、本気で自然エネルギーにシフトしていこう、という意気込みは、いまだに感じられない。

原子力発電所がなければ、CO2を削減しながら日本の経済を支えるほどのエネルギーは確保できない、という意見があり、もう一方では節電さえ不要で自然エネルギーだけで何とかなる、という人たちがいる。果たして、どちらの言うことが本当なのか。しかも、その議論はどちらかというと二者択一になって対抗し合い、未来に向けてベストミックスのエネルギー政策をつくるんだ、という強い意志が感じられない。

私たちの期待や要望は、果たして実現可能なことなのか、単なる理想主義的な絵空事なのか。自ら調べ、データを正しく読み取り、判断するリテラシーを持って行動することが求められている。

地域密着・分散型

自然エネルギーは、「地域密着型」で「分散型」である。大規模集中型の対極にあるその特徴は、今まではマイナスととらえられてきた。しかし、どこかに不具合が生じても、分散型だったら壊滅的な打撃は生じない。自家発電にも使えるように送・配電網を整備すれば、非常時にも活用できる。

また、小・マイクロ水力発電の適地は、経済的に疲弊し、人口流出が止まらない山間部にこそ多く見出すことができるから、地域復興の糸口となる可能性が高い。取り組むことでエネルギーとの心理的距離を縮め、生活力を高めるという効果もある。

「雑な電気」という欠点も、日本ではその解決策として、蓄電池(バッテリー)にいったん蓄えて均質な電気に変換すべき、といわれてきた。しかし「蓄電池なんて使わない。ただ、集めるだけ。集めれば集めるほど、変動が少なくなっていく」と谷口信雄さんはスペインの例を挙げる(「《地産都消》都市の役割」参照)。たくさん集めることで平準化できるなら、大いに推進して、あちこちから集めることがメリットにもなる。

大・中・小・マイクロ

3000〜1万kWの中小水力発電適地は「固定買取価格が上がれば採算性の問題が解消したり、充分な利益が出るというような開発適地は、放っておいても開発される」と小林久さんはいう(「小水量発電の未来とは」参照)。しかし、もっと小規模な発電所は太陽光パネル並みの支援がされないと、普及するのは難しい。

被災地支援のために産品を買い支えようという気運が起こっているが、高知県の誰某さんがつくった電気や、富山県の名水でできた電気を選べるようになったら、都会に居ながらにして地域支援が可能になる。縦横に張り巡らされた農業用水路を発電に活用できれば、農の復興にも貢献できるかもしれない。

50年前に織田史郎さんは、日本の復興と農業振興のために、地域資源である小水力発電に取り組んだ(「小水力発電の巨人 織田史郎」参照)。以来、石油価格や原子力に翻弄されてきたが、それでも立派に稼働している発電所が現存し、風土に見合った息の長いエネルギーであることがわかる。

未来の設計図を描くとき、健全な水循環に則った小水力発電で、その夢を叶えたいと思う。それを阻む障害は、みんなの合意で克服したいものだ。



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