機関誌『水の文化』77号
みんな、泳いでる?

みず・ひと・まちの未来モデル
暮らしに根づいた水場の「価値」存続の論理
──名水百選「浜の川湧水」から考える生活と観光

地域が抱える水とコミュニティにかかわる課題を、若者たちがフィールドワークを重ねて議論し、解決策を提案する研究活動「みず・ひと・まちの未来モデル」。4年目を迎えた2024年度は、名水百選の選定地である長崎県島原市の「島原湧水群」を対象地域に選びました。
この研究活動のかじ取り役は、法政大学現代福祉学部准教授の野田岳仁さんです。野田さんの指導のもと、新3年生のゼミ生11名とミツカン社員2名が研究に取り組みます。2024年5月2~5日、野田さんとゼミ生たちは島原市を訪ね、島原湧水群の「浜の川湧水」を中心に調査を重ねました。
観光地化が進む「浜の川湧水」において、その水を使って暮らしている地元の人たちは来訪者をどう考えているのでしょうか。野田さんに記していただきました。

野田 岳仁

法政大学 現代福祉学部 准教授
野田 岳仁(のだ たけひと)

1981年岐阜県関市生まれ。2015年3月早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。2019年4月より現職。専門は社会学(環境社会学・地域社会学・観光社会学)。2023年8月、著書『井戸端からはじまる地域再生―暮らしから考える防災と観光』(筑波書房)を上梓した。

朝早くに洗濯物を抱えて浜の川湧水へやってきた満尾はるこさんとゼミ生たち

朝早くに洗濯物を抱えて浜の川湧水へやってきた満尾はるこさんとゼミ生たち

〈水場の存続〉と〈水場の「価値」存続〉

みず・ひと・まちの未来モデル4年目は、長崎県島原市の島原湧水群を対象とする。

今回の調査は収穫が大きい。例年の夏の調査合宿に匹敵するほどのデータを得ることができ、夜のディスカッションは白熱した。最終日前夜のディスカッションでは、それまでよりも問うべきクエスチョンが浮かびあがり、現場の人びとの論理をたどりながらその解を導きだす心躍る時間であった。初回の連載(68号)にてフィールドワークでは仮説が裏切られ、現場でもっと深い問いを立てる重要性を述べたが、今回の経験もそれにあたる。そんな経験の共有を願って、調査のプロセスを記述してきたい。

まずは、島原湧水群をとりあげる理由を名水百選選定地が抱える課題とともにあげておこう。1985年(昭和60)からはじまった環境省による名水百選選定制度の狙いは、「名水」のお墨付きを与えることによる環境保全と地域活性化の促進にあった。地域資源の再評価によって新たな管理の担い手の参画や集客による経済的効果が期待されているからである。

けれども、選定から40年が経過したいま、存続が危惧される名水百選選定地もでてきた。その理由は、①水場の観光地化に伴って、地元住民の〈生活〉と〈観光〉の折り合いがつけられないうえに、②地元住民の利用者・管理者の減少や高齢化によって、誰も利用しない魅力のない観光スポットに変貌してしまったからだ。地元住民からは「昔とは変わってしまった」とか、「なんのために守るのか」といった存続の是非を問う声が発せられるようになっている。

しかし問題なのは、観光地化や担い手不足という表面的な現象ではない。人びとは地元住民の暮らしに根付いた水場の「価値」を知る利用者や管理者がいなくなることを嘆いたり、地元の生活利用の「価値」から離れた水場が保全されることに対して、なんともやるせない気持ちを抱いているからである(注1)。すなわち、名水百選選定制度はたしかに〈水場の存続〉を目指したものであるのだが、地元住民の暮らしに根付いた〈水場の「価値」存続〉に至っていないことが本質的な問題と考えられるのである。大切なことは、地元住民に共有された水場の「価値」を存続できなければ、観光客を惹きつける観光資源にもなりえないことであろう。地元の人の言葉を借りれば、「形(ハード)だけ残ってもなんにもならない」ということである。

この問題に対して島原湧水群の事例はそのヒントを示してくれる予感があった。もっとも、この本質的な問題にストレートに応答できるか確信があったわけではないが、少なくともその手がかりとなりそうな問いには応答できると考えていた。

(注1)
ここでいう水場の「価値」とは、水を汲んだり、洗濯できたりという「資源的価値」だけを指しているのではない。この連載で各地のフィールドから明らかにしてきたように、人びとの関係性やむら(村落)の自治と不可分という、いわば「社会的価値」も含まれるであろう。

  • 浜の川湧水で遊ぶ子ども。かんざらしを提供する「銀水」が営業している時間帯は観光客が多い

    浜の川湧水で遊ぶ子ども。かんざらしを提供する「銀水」が営業している時間帯は観光客が多い

  • 浜の川湧水で遊ぶ子ども。かんざらしを提供する「銀水」が営業している時間帯は観光客が多い

    浜の川湧水で遊ぶ子ども。かんざらしを提供する「銀水」が営業している時間帯は観光客が多い

  • 浜の川湧水で遊ぶ子ども。かんざらしを提供する「銀水」が営業している時間帯は観光客が多い

    浜の川湧水で遊ぶ子ども。かんざらしを提供する「銀水」が営業している時間帯は観光客が多い

  • 島原市 地図

     

浜の川湧水における〈生活〉と〈観光〉の拮抗

島原湧水群の代表格である「浜の川湧水」では、浜の川町内会の共有地にある共同洗い場でありながら、驚くことに島原市の政策上は、隣接する島原名物「かんざらし」の名店「銀水」(創業大正4年・2016年復活)とともに「観光施設」としての扱いとなっている。すなわち、地元住民の〈生活〉と〈観光〉とが拮抗する典型例なのである。

すぐ後にデータを示す通り、「浜の川湧水」は2018年8月の調査時点では1日に88人の利用者であったのが、約4倍の343人に増加し、市内有数の観光スポットになっている(注2)。観光地化に伴って、地元住民は観光客が訪れる時間帯を避けて水場を利用するようになっているし、観光客による私有地への無断駐車に迷惑している人もいる。最近では、水を飲むための柄杓が真っ二つに折られ、私たちが訪れた1週間前には新しい柄杓3本が盗まれたというのだ。

にもかかわらず、浜の川町内会の対応はじつに前向きで、まるで観光地化を歓迎しているかのようにもみえる。もっとも、調査を進めていくと人びとの態度には差異があって、歓迎とまではいえない意見を示す人がいないわけではなかった。それでも、町内会としては前向きに受け入れているのである。

これまで名水百選の現場を数多く歩いてきたが、これほど観光地化に前向きなフィールドに出会ったことはなかった。一見不可解にもみえる人びとの態度の背後にある地域社会の受け入れの論理をいつか解き明かしたいと考えていたところに、この連載を読んでくださっている町内会長の相良(さがら)信一さんから「ぜひうちでも」と声を掛けていただくことになった。さらに、今年の8月には名水百選選定地の176の市町村が一堂に会する「名水サミット」が島原市で開催され、水への関心が高まる絶好の機会でもある。

(注2)
2018年8月28日の6時〜18時までに当時の所属先である立命館大学のゼミ生とともに、浜の川湧水で利用実態の調査を行っている。

  • 朝6時から夕方6時まで3時間ずつ交替しながら浜の川湧水で聞きとりを続ける学生たち

    朝6時から夕方6時まで3時間ずつ交替しながら浜の川湧水で聞きとりを続ける学生たち

  • 朝6時から夕方6時まで3時間ずつ交替しながら浜の川湧水で聞きとりを続ける学生たち

    朝6時から夕方6時まで3時間ずつ交替しながら浜の川湧水で聞きとりを続ける学生たち

  • 朝6時から夕方6時まで3時間ずつ交替しながら浜の川湧水で聞きとりを続ける学生たち

    朝6時から夕方6時まで3時間ずつ交替しながら浜の川湧水で聞きとりを続ける学生たち

  • 浜の川湧水をさまざまに利用する地元の方々。聞きとり調査にご協力いただいた

    浜の川湧水をさまざまに利用する地元の方々。聞きとり調査にご協力いただいた

  • 浜の川湧水をさまざまに利用する地元の方々。聞きとり調査にご協力いただいた

    浜の川湧水をさまざまに利用する地元の方々。聞きとり調査にご協力いただいた

  • 浜の川湧水をさまざまに利用する地元の方々。聞きとり調査にご協力いただいた

    浜の川湧水をさまざまに利用する地元の方々。聞きとり調査にご協力いただいた

  • 浜の川湧水をさまざまに利用する地元の方々。聞きとり調査にご協力いただいた

    浜の川湧水をさまざまに利用する地元の方々。聞きとり調査にご協力いただいた

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浜の川湧水の観光地化を受け入れる論理

では、なぜ人びとは観光地化を受け入れるのだろうか。私たちはその理由を分析するために、まずは浜の川湧水の利用実態を把握することを目指した。朝6時から夕方6時までの12時間水場に張り付いて調査を行うと、表1のようにじつに多様な利用がみられた。

表1をみてわかることは、明らかに観光地化が進んでいることである。1日の利用者数343人という数字は、2021年度実施の松本編(69号)の「源智の井戸」の209人を超える驚くべき数字である。地域の洗い場の利用者数としては全国最多といえるのではないだろうか。2018年の数字と比べても、行政政策上の「観光施設」という位置づけを体現するかのように、観光客の利用が急増しているのである。この表を丁寧にみると、浜の川町内会や近隣住民の利用は早朝の時間帯に集中していることがわかる。10時のかんざらし店舗「銀水」のオープンとともに、水場は観光客利用に一変する。そして、「銀水」利用者が落ち着きだす夕方になると、再び地元住民の利用に戻る。これをみると、〈生活〉と〈観光〉の棲み分けがなされているようにもみえる。これは、住民の生活戦略としての工夫なのだと捉えるゼミ生もいた。そうまでして観光地化を受け入れる理由とはどのようなものなのだろうか。

調査を進めていくと、浜の川湧水の持続的利用に対して、町内会が抱える不安要素が2つあることがみえてきた。そして、この不安要素を解消する手段として、水場の観光地化が位置づけられているようなのである。どういうことであろうか。

ひとつは、水質の安全性についてである。住民はもちろん、水汲みに訪れる観光客が増加するなかで、水質の安全性の確保は懸念材料であった。これまでは島原市によって年に1回の水質検査が行われていたが、浜の川湧水が引き込まれた「銀水」が復活すれば、食品衛生法の規制のもと、毎月の水質検査が行われることになる。これは利用者の安全と安心につながるものなのであった。

もうひとつは、掃除の担い手不足であった。町内会では、毎週日曜日に浜の川湧水の掃除を行う。班ごとの輪番制である。藻が生えないように念入りにタイルを磨く必要があり、しっかりやろうとすれば、10人ほど必要なものなのだという(表2と表3)

表3をみてみよう。班ごとにばらつきがあるのだが、注目したいのは2018年時点で参加人数が少なかった3班、6班、7班の人数が増えている点である。「きれいにしておかないとみっともない」という気持ちから掃除にでてくる人が増えたそうだ。観光地化に伴い「みんなでがんばろうという気持ち」になって、所有意識の強化につながっているようなのだ。人びとが観光地化を前向きに受け入れる理由には、町内会が抱える懸念事項を解消する効果がみえつつあった。

私たちはこの時点での結論の見通しにそれなりの手応えを感じていた。しかし、いくつか引っ掛かる点があった。その引っかかりは最終日前夜のディスカッションで焦点化されることになり、それまでの問いを撤回することになった。というのは、浜の川湧水の観光地化に対する意見の差異が、利用頻度と反比例しているからであった。

  •  表1 浜の川湧水の利用実態(利用件数/人数)

    2024年5月3日(金・祝)の野田研究室による聞きとり調査をもとに作成
    (注)1人につき複数利用がある場合は利用件数として該当区分に反映
    見=見学利用には手をつける行為を含めた。水遊びは該当区分に反映

  • 浜の川湧水の利用区分と規則

  • 表2 浜の川町内会の戸数

    野田研究室による聞きとり調査をもとに作成

  • 表3 浜の川湧水の掃除への参加者数

    野田研究室による聞きとり調査をもとに作成

  • 浜の川湧水

     

  • 浜の川湧水の隣に建つ「銀水」の外観

    浜の川湧水の隣に建つ「銀水」の外観

  • 「銀水」を経営する稲田智久さん

    「銀水」を経営する稲田智久さん

  • 提供する「かんざらし」

    提供する「かんざらし」

利用頻度と排除性の逆転現象

説明しよう。これまでの地域資源管理論の定説は、ある資源の利用頻度の高い人ほど排除性を強めるというものである。ある資源をよく利用すればするほど愛着やなわばり意識が強くなり、結果的に他者を排除しがちになる。考えてみれば、当然のことであろう。利用価値を深く知っていればいるほどその資源を守ろうとする意識が強まるからである。しかしながら、浜の川湧水では、この定説とは真逆の現象が起きているようなのである。

水神様に手を合わせたり、水を汲んだり、魚をさばいたり、洗濯をしたり、1日に何度も浜の川湧水を利用する人ほど観光地化や観光客の利用を歓迎する傾向にあるようなのだ。一方で、利用頻度が低い人ほど観光地化や観光客の利用を歓迎とまではいえない意見のようなのである。すなわち、浜の川湧水の利用頻度が高く、利用価値を認識している人ほど排除性は低く、利用頻度の低い人ほど排除性を高めてしまうということなのである。これは一体どういうことなのだろうか。

私たちが強く惹きつけられたのは、この通説の逆転現象の背後にある人びとの判断の奥深さにある。一見不可解にもみえる人びとの判断の合理性を問うことで地域資源管理論の新たな知見を導きだしてくれるように感じられたからである。

たしかに浜の川湧水の管理体制は弱体化傾向にある。したがって、浜の川湧水の行く末に疑問を抱く意見がないわけではなかった。なかには市に管理を任せることになるのではないかと語る人もいる。それでも、利用頻度の高い人ほど楽観的で、利用頻度の低い人ほど悲観的であるようなのだ。私たちは聞きとりと利用者の行為の分析を重ねるうちに、ある一貫した考えに気付かされることになる。

その考えとは次のようなものである。すなわち、利用頻度の高い人は、心の底から浜の川湧水の利用価値を感じている。こんなにいいものなんだから、独占することは許されない。観光客にもどんどん利用してもらい、その価値を感じてもらいたいと思っている。そして、この価値を共有することができれば、その価値を感じた担い手が現れ、自ずと浜の川湧水は存続するだろう。そう確信しているように考えられたのである。このような人びとの考えをここでは、〈水場の「価値」存続〉の論理と呼んでおこう。では、このような人びとの考えをどう理解すればよいのだろうか。

  • 夕方から行なう討議。それぞれが調べたことやわかったことを報告し、議論を重ねる

    夕方から行なう討議。それぞれが調べたことやわかったことを報告し、議論を重ねる

  • 島原市 市民部環境課 班長の濱口広志さん(左)と主任の原野聖さん(右)。GW中にもかかわらず連日出勤してゼミ生たちをサポート

    島原市 市民部環境課 班長の濱口広志さん(左)と主任の原野聖さん(右)。GW中にもかかわらず連日出勤してゼミ生たちをサポート

  • 浜の川町内会の会長を務める相良信一さんが初めて島原を訪れたゼミ生たちを案内。浜の川湧水の資料提供、人物紹介など全面的にバックアップ

    浜の川町内会の会長を務める相良信一さんが初めて島原を訪れたゼミ生たちを案内。浜の川湧水の資料提供、人物紹介など全面的にバックアップ

〈水場の「価値」存続〉の論理の意味

ビジネスやマーケティングの世界では、全体の数値の大部分は全体を構成する一部の要素が生みだしているとする「パレートの法則」が知られている。経済学者であり、社会学者でもあったヴィルフレド・パレートが発見した統計モデルであり、売上の8割は2割の顧客によって生み出されているとするものだ。じっさいには、法則というよりも経験則として経済現象や社会現象を説明するモデルとして活用されている。

近年、企業は不特定多数の顧客に向けたマスマーケティングよりもファンマーケティングに力を入れるように方向性が変わりつつある。ファンマーケティングの現場では、このモデルに基づき不特定多数の顧客の拡大よりも少数の熱狂的ファンを生みだすことがビジネスの持続性を高めると考えられているからだ。広く浅く顧客にアプローチするのではなく、狭く深く価値共有できるファンの開拓がポイントである。

〈水場の「価値」存続〉の論理とは、このモデルと親和性が高いように感じられる。つまり、洗い場の存続には、闇雲に担い手を拡大するよりも少数であっても強力なファンの存在が持続性を高めるというものだ(注3)

この論理を裏付けるかのように、観光地化を経て、強力な担い手が出現している。それは、「銀水」を経営する稲田智久さんである。稲田さんは、「銀水」の経営を引き継いだ2020年からほぼ毎週の掃除に参加していた。町内会では、「銀水」を復活させる条件に町内会への加入、5班の掃除に参加することをあげていたが、稲田さんは5班以外の掃除の際にも積極的に参加していた。稲田さんは「銀水」があるのは、浜の川湧水のおかげであると心の底から感じているからであろう。すなわち、稲田さんは浜の川湧水の強力なファンなのだ。

冒頭に述べたように、名水百選選定地ではその存続が揺らぎつつあり、管理の担い手の拡大策が進められている。いわば、管理者獲得へ向けたマスマーケティングである。しかし、町内会員の参加を義務づけたり、ボランティアを動員しても、水場の「価値」共有にはつながらず、魅力のない水場への変貌を招いている(注4)。水場を利用しない「価値」のわからない人が動員されているからである。

それに対して、この〈水場の「価値」存続〉の論理は、名水百選選定地を抱える行政職員や地元住民を勇気づけるものであろう。人びとはハードとしての〈水場の存続〉よりも、地元住民の暮らしに根付いた〈水場の「価値」存続〉を望んでいるからである。すなわち、少数であっても水場の価値共有できるファンを開拓する方法に有効性がありそうなのだ。そして見逃せないことに、浜の川湧水がこれほどまで多くの観光客を惹きつける理由とは、紛れもなく、暮らしに根付いた水場の「価値」が引き継がれているからなのである。

(注3)
水場の担い手獲得へ向けたファンマーケティングとは、闇雲に担い手を探すのではなく、水場を観光利用として外部に開くなかで、利用者のなかから「価値」のわかるファンを見いだし、担い手になってもらうようなアプローチであろう。

(注4)
野田岳仁(2018)「コモンズの排除性と開放性─秋田県六郷地区と富山県生地地区のアクアツーリズムへの対応から」鳥越皓之・足立重和・金菱清編『生活環境主義のコミュニティ分析ー環境社会学のアプローチ』ミネルヴァ書房:25-43

  • 春の合宿に参加したゼミ生とミツカン社員。浜の川湧水で撮影

    春の合宿に参加したゼミ生とミツカン社員。浜の川湧水で撮影

学生たちが気づいた「水頭の井戸」の危機(編集部)

島原に到着後、相良信一さんが島原市の湧水群と中心部を案内してくれました。「水頭の井戸」(水頭ポケットパーク)を訪ね、白土湖(しらちこ)方面に向かう途中で少し隊列がばらけます。すると相良さんは列の先頭付近にいた3名の学生たちに工事中の真新しい道路を指さしながら何か話していました。

「水頭の井戸」は一方通行の狭路に面していますが、その道路を片側一車線に広げるための拡幅工事だったのです。相良さんのお話から「水頭の井戸」が移動する、最悪の場合「つぶされる」という状況にあることがわかりました。

拡幅工事の情報を共有した学生たちは、2日目に浜の川湧水に張り込んでの聞きとり調査(4チームが3時間ずつ交替)をしつつ、「水頭の井戸」でも聞きとりを行ないました。その結果、数年前まで水道組合が存在していたこと、今は14~15軒が交替で掃除していること、拡幅工事は3年後に終わることなどがわかりました。

さらに興味深いエピソードを学生が聞いてきました。「水頭の井戸」の水で暮らしていたこの地域に上水道が引かれた時、「どうして水にお金を払うのか」と市役所に乗り込んで抗議した男性がいたそうです。水道組合で水を利用していたときに支払うのはポンプの電気代だけ。水にお金を払わない代わりに、井戸や水路を掃除する。それが水を使う対価だったのです。

この報告を聞いた野田さんは「おもしろい!井戸の水は貨幣に代替できないものです。その認識が上水道によって捻じ曲げられたことが強い怒りとなったのかもしれない」と応じました。

夏の合宿では、学生たちが着目した「水頭の井戸」についても深く調査研究していく予定です。

相良信一さんの案内で訪問した「水頭の井戸」

相良信一さんの案内で訪問した「水頭の井戸」

(2024年5月2~5日調査)

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