研究成果発表会にご参加いただいた大毎集落の皆さんと野田ゼミ発表者、ミツカン若手社員。
後方のスクリーンには就職活動やインターンなどで当日参加できなかった学生たちの姿も映っている
「みず・ひと・まちの未来モデル」の3年目は、新潟県村上市の大毎(おおごと)集落が研究対象です。「小規模集落水道」がむら(村落)の自治機能の安定化とどうかかわっているのかを明らかにしました。
小規模集落水道とは、近代的な上水道システム(簡易水道含む)の整備されていない地域で、集落独自に小規模な戸数(給水人口100人以下)に給水する小規模水道を指します。該当する人口規模は全国で200万人程度と想定されています。
100年近く小規模集落水道を維持している大毎集落を、法政大学現代福祉学部准教授の野田岳仁さんと野田ゼミ3年生、ミツカン若手社員が訪ねてフィールドワークを重ね、むらの自治との関係性を探っていきました。
大毎集落の皆さまのご厚意により、2023年(令和5)12月10日、大毎集落開発センターで「研究成果発表会」を開催しました。機関誌『水の文化』の紙上だけでは伝えきれなかった研究成果発表資料、そしてゼミ生とミツカン若手社員に研究活動を振り返ってもらいました。
上空から見た大毎集落
大毎集落の皆さまのご協力により、2023年12月10日、大毎集落開発センターで「研究成果発表会」を実施しました。意見交換では出席した住民の方々からとても好意的なメッセージをいただきました。当日に投影した資料を全ページ公開します。ぜひダウンロードしてじっくりご覧ください。
研究成果発表会資料(PDF3.29MB)
大毎集落の方々に向けて「研究成果発表会」を終えた2023年(令和5)12月27日、野田岳仁准教授と野田ゼミ3年生がミツカンの東京ヘッドオフィスを訪問し、ミツカン若手社員も含めて研究活動を振り返りました。学生の皆さんと若手社員に、印象に残っている人や言葉、ゼミ合宿のこと、研究活動で得たことなどを語ってもらいました。(文中敬称略)
一杉 水がきれいでおいしいことをまず感じました。そして、私たちのような部外者にも水源地を見せてくださったことは大きな驚きです。水が湧き出ているところを実際に見ることができて、とても印象に残っています。
中里 私たちはいわば「よそ者」ですので、受け入れていただけるかどうか不安もありましたが、大毎の皆さんはとても親しみをもって接してくださったのでとてもうれしかったです。集落内の空き家に泊まらせていただいたことも貴重な体験になりました。
清水 私が生まれ育った栃木県北部では、徐々に家がまばらになっていくのに対し、大毎は忽然と現れ、しかも家々が密集しているので驚きました。調査で歩いていると声をかけてくださるなど、温かい人たちでした。私の実家は人間関係が都市部ほど希薄ではないけれど大毎ほど濃密でもないので、中山間地域だからといって一括りにはできないとも思いました。
中村 これまで授業でいくつかのフィールドに行きましたが、大毎ほど水を大事にしているところはなかったと感じています。きれいな水が当たり前のように流れていて、誰でも水が汲める場所があって、人びとも温かい。特に区長(総代)の佐藤栄作さんに、温泉や景色のいい場所に連れて行ってくださったことは印象に残っています。
渡辺 2年生のときに滋賀県の針江集落を訪ねたのですが、駅から歩いていける距離でしたし、日帰りだったので住民の方々とそれほど交流もありませんでした。ところが大毎は最寄りの駅から遠いですし、集落がポツンとあるようなところ。水を大事にしていることは同じでも集落ごとに違いがあるのだと実感しました。吉祥清水は多くの人が水を汲みに来ていて、集落と同様にオープンな雰囲気を感じました。
田渕 水に関して詳しくない私でも吉祥清水の水をひと口飲んだら「あ、普段飲んでいる水とは全然違う。おいしい!」と思いました。また水神講に用いていた水神様の掛け軸を見せていただいたのも得難い経験です。
田渕 私と一杉さんは大毎集落開発センターに残って集落の人たちに話を聞く時間が割と長かったのですが、集落へ出て話を聞こうとすると「もう4回目だよ」と笑われることもあり、それでも皆さん嫌な顔をせずいろいろなお話を聞かせてくださいました。
田中 もっとも印象的だったのは、佐藤栄作さんの「畑を見ればその人の人間性がわかる」という言葉です。水源地の管理や掃除を任せられる人かどうかは畑を見れば判断できるのだそうです。人びとにとって大事な水を託すことができる人物か否か……という判断基準をそこに置いていることは、私にとって衝撃でした。
池田 合宿を通して感じたのは、大毎の人びとが水に対して誇りを抱いていることでした。皆さん、それこそ生まれたときから塩素消毒していない小規模集落水道を使って健康に生きてきた歴史があります。水、そして大毎という集落に対して強いプライドをもっているところはかっこいいと思いました。また、都市部だとご高齢の方は福祉施設のお世話になることが多いですが、大毎ではご高齢の方々が集まって草餅をつくっていたりする。仲間とともに元気に働いている人びとの姿を見ることができたのも印象的でした。
一杉 聞き取りをするなかで、住民の方々の本音を伺うことができたのは自分にとって大きな収穫でした。水源が安定している大毎水道組合以外の水道を利用している方々に質問を変えながら何度も尋ねて「たしかに(大毎水道組合は)ちょっと羨ましいかな」という言葉を聞き出せたんです。春の調査で野田先生の聞き取りのやり方を横で見ていて学んだことを実際に活かすことができました。
桑田 私たちミツカン社員は夏合宿が最初の訪問でした。新潟市に観光目的で行ったことはありますが、大毎のような集落に踏み込んだのは初めてで、しかもフィールドワークも未経験。アポなしで訪問すると聞いて不安でしたが、学生さんたちに教わりながら慣れていった感じです。小規模集落水道の水は融雪にしか使っていなくて、普段は簡易水道で生活している人とお会いして「あまり水を意識していないのかな?」と思いましたが、貯水槽をとてもきれいに掃除しているんですね。ですから、やっぱり水を大切にする文化がこの集落には根づいているのだと感じました。
佐藤 事前にいただいた資料を読み込んで合宿に臨んだものの、フィールドワークについてはよくわかっていませんでした。一軒一軒訪ねて、「こんにちは」と声をかけて反応がなければ戸を開けてみる――そんな学生さんたちのやり方を見て「私にはこの勢いが足りない!」と反省したり、それほどやっても夜の討議に間に合わないという焦りもひしひしと感じて「私もやらなきゃ!」と取り組みました。印象的だったのは、学生さんも言っていましたが大毎の人たちの温かさです。「暑いでしょう」と飲みものをくれたり、「涼んでね」と扇風機を持ってきてくれたり……すごくいい経験ができました。
山下 私はTA(ティーチングアシスタント)として参加しましたが、昨年度の真鶴町での研究活動とはだいぶ違うと感じました。真鶴町ではコロナ禍でしたのである程度目星をつけて事前にアポイントをとってお話を聞きましたが、大毎ではとにかく一軒ずつ回ってそれぞれが抱える調査項目を調べていくので、3年生はスケジュールや訪問するエリアを連携しながら緻密に計画を立てて行動していた。「すごいな」と思って見ていました。また、どの人に聞いても情報量がすごく多いことにも驚きました。それは、きっと1カ月ごとに組長の役割を回している大毎ならではのしくみによるものだと思います。
一杉 11月に追加調査で大毎を訪ねたとき、『水の文化』75号の誌面を見た集落の人から「すごいね! 見事に言い当てている。私たちの感覚とずれていないよ」と声をかけられたんです。人びとの心はなかなかつかむことができないものだと思うんですが、野田先生の分析が的確だったから集落の人に認められた。それは生活環境主義の強さなのではないかと思いました。
田渕 生活環境主義は、住民の方々からお聞きしたことから組み立てていく方法論です。一杉さんが話したように、集落の人に受け入れられたことで、やはり間違いなかったのだとわかってうれしかったです。
田中 「これぞ研究!」と思ったのは夏のゼミ合宿2日目の夜のディスカッションです。それまではゼミで論文を読んで意見を述べることはあっても、自分で収集した情報から「私はこう思います」と強く主張することはなかったのです。しかしその夜は、結論を導き出そうと侃侃諤諤と意見を戦わせることがあり、とても楽しかったんです。ただし、合宿で得た膨大な情報を持ち帰り、どれを活かすかという取捨選択していく過程はかなり難しい面がありました。
桑田 大毎へ行って知見が広がりました。水道組合というものがあって、湧き水を自分たちで管理して今も大事に使っている――それはこの研究活動に参加しなければ一生知らないままで終わったかもしれません。「水を大切にする」と公言しているミツカンという企業で働いている者として、実際に水を大切にしている人たちと会って、その暮らしの一端を体感できたことは、自分にとって大きな財産になるはずです。
佐藤 夏のゼミ合宿後は、当初立てたスケジュール通りに進まなくて苦しいことが多かったです。私は学生さんたちがつくった発表資料に対して「こうしたらわかりやすいかも」と意見を述べる立場でした。情報の取捨選択と結論までの道筋を立てるのは難しかったと思いますが、学生さんたちはほんとうにがんばっていました。研究に携わって発表の場にも立ち会えたこと、今後の大毎の水のあり方と自治につながる意義深い活動に参加できたことに感謝しています。
田中 研究成果発表会に向けてはとにかく練習を重ねました。一杉さん、田渕さんと私の3人で、オンラインで練習したこともあります。内容もさることながら、うまくお伝えできるように話すスピードや抑揚も試行錯誤しました。最終的には住民の皆さんにうまくお伝えできたようでホッとしています。
山下 TAという立場からは反省することばかりです。全員がもっと活躍できるようなポイントを提示したり、より達成感が感じられるようにするためのチームづくりなどしっかりコーディネートできればよかったのですが……。発表資料も情報が膨大だったので、取捨選択と強調すべきポイントの見極めとその表現が難しかったです。
一杉 山下さんはそう仰いますが、私たち3年生のチームワークが弱かったので、実際は山下さんと野田先生の力を借りなければまとめ上げるのは難しかったと思います。山下さんにいろいろ相談し、またミツカンの方々に発表資料をお送りしたらすぐにコメントを付けて戻してくださるなど助けられました。大毎の皆さんも含めてさまざまな人たちの力を借りながら研究成果発表会を無事に終えることができた今、感謝の気持ちでいっぱいです。