機関誌『水の文化』45号
雪の恵み

雪の恵み

編集部

雪の市民会議

雪特集をするなら「厄介もの扱いの雪を積極的に資源にしている例を紹介したい」と始まった45号。皮切りは2012年(平成24)7月7日に東京農業大学(東京都世田谷区)で行なわれた第7回〈雪の市民会議〉です。ホームページを見ると事務局は公益財団法人雪だるま財団、しかも所在地は雪のまちみらい館ではありませんか。そこで、昨年の真夏に雪の市民会議に参加してリサーチから始めました。

エネルギーとしての魅力

1997年(平成9)「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」により新エネルギーが規定され、2008年(平成20)の改正時に、雪が新エネルギーに認められました。

〈雪の市民会議〉で知ったのは、冷熱エネルギーという言葉。雪はうまく貯蔵すると意外と長い間、融けずに残ります。重機と手軽な断熱材と設計能力を駆使すれば、昔よりはるかに簡単に効率の良い冷熱エネルギー貯蔵が実現できる、と室蘭工業大学教授の媚山政良さんは可能性の大きさを指摘しています(「新エネルギーとしての雪資源 克雪から利雪へ」参照)。雪が降らないけれど寒い地域では、土や水を凍らせることで代替できるそうです。

化石燃料を使って発電した電気の代わりに、融けるスピードを調整しながら、雪の冷気をそのままの形でエネルギーとして使えば、化石燃料節約、CO2排出削減につながります。しかも、その素となるのは川にお金をかけて捨てている雪なのですから、「雪の無念の泣き声が聞こえませんか」と媚山さんが言うのも当然かもしれない、と思えてきます。

使ってわかった副次的メリット

「使っているうちに、除湿や除塵、消臭効果だけでないメリットもわかってきました」と言うのは新潟県魚沼市で利雪住宅を手がける山田正人さん(「最新の冷熱エネルギー活用 利雪の家」参照)。

雪を冷熱エネルギーとして使えば、コンプレッサーのONとOFFの切り替えがなくなるから、振れ幅がない一定の温度を保てます。

低温貯蔵なら食品にストレスがかからず、長期保存が可能になり、味を良くする効果があることもわかりました。〈雪の市民会議〉で試食したニンジンやジャガイモの甘かったこと!現在は、それらの効用を見える化するために、科学的に実証しようと取り組んでいます。冷房に使うととても快適なことも、取材中にお邪魔した利雪住宅で体験しました。

雪を核としたまちづくり

今までは、地域が疲弊していくのを雪のせいにする地域もありました。公益財団法人雪だるま財団の伊藤親臣さんによると、新潟県上越市安塚では「過疎を雪のせいにしがちだが本当にそうなのか。雪を見直してみよう」(「あるがままの雪利用 雪室と雪だるま財団」参照)と、雪をまちづくりの核に据えた活動を始めたそうです。

同じ上越市の高田では、江戸時代から続く雁木を見直すことでまちづくりが進んでいます。雁木というのは主屋から張り出す個人所有の軒や差し掛ける庇のこと。「高田の人の助け合い精神というか鷹揚さを感じさせられますね」と建築家であわゆき組代表の関由有子さん(「雪都・上越高田の宝物 日本一の雁木通り」参照)は言います。自然や人とのつながりを大切にしてきた雪国の人々によって残された雁木が、コミュニティの求心力になっています。

一方、さっぽろ雪まつりは来年65回目を迎え、経済効果250億円という雪の祭りの横綱格。「冬は資源であり、財産である」というスローガンのもとに始まった〈世界冬の都市市長会〉も、さっぽろ雪まつりが引き金となったようです(「快適な北方都市の創造〈世界冬の都市市長会〉」参照)。気候・風土の似ている世界の北方都市が共通する課題について話し合い、快適な北方都市の創造に努めています。

雪国は雪をどう見ているか

当センターが行なっている第18回水にかかわる生活意識調査では、例年の東京・大阪・中京圏と対比させるため、新潟市の雪への想いもリサーチしました。

雪に対するプラスのイメージは1位が「美しい景色」2位が「ウィンタースポーツ」と違いが出ませんでしたが、マイナスのイメージは新潟市では「除雪」を1位に選び83.1%だったのに対し、その他の地域では5位で54.9%。住んでいるからこそ、苦労が身にしみていることがわかりました。

畏れ、感謝する心

秋田県横手市のかまくら祭は「神事でなく行事」とかまくら委員会委員長の照井吉仁さん(「水神様を祀るかまくら」参照)。かまくら祭を「年に1回ぐらいは、『なければ生きていかれないのにあって当たり前だと思っているもの』に感謝する日」だと言います。

とかくマイナス面ばかり強調されがちな雪ですが、今号では資源として生かされている例を紹介しました。利雪促進が一層進むことで、雪国に希望の光が射すことを期待しています。



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