日本人は「そば」が好きだ。そばを食す歴史は縄文時代まで遡る。平安時代には米が不作のときの代用品(救荒作物)としてソバの栽培が推奨されていたという。ソバの実を粉にして水や湯で練り上げ「そばがき」などで食していたそうだ。
今、私たちが食べている麺状のそばは、正式には「そば切(き)り」だ。そば粉に水や湯を入れて練った生地を平らにのして包丁で細く切る。そば切りがいつ生まれたかは諸説ある。そば切りも含めてそばにはわからないことが多い。
製粉から製麺まで、そばは水とつながりがある。かつて収穫した実は水車とつないだ石臼で粉にした。そば粉に水を入れて固まりにしていく「水回し」は手打ちの肝であり、そばをゆで、冷やすのにも水を使う。
食文化の単一化が進む現代にあって、そばは各地の特色を比較的残している。数多ある産地のなかから、今回は編集部が水とのかかわりで興味深く感じた地域のそばを取り上げた。そばと水に目を向けることで、その土地の歴史や文化、気候などを見つめていきたい。
※本特集の「ソバ」「そば」の表記
[植物]ソバ
[食品]そば=ざるそば、そば打ち、そばがき、そば殻、そば粉
水車の動力でそば粉を挽く。今ではあまり見られない、貴重な文化だ(岩手県葛巻町「森のそば屋」)