魚介類は天然ものがいちばん、養殖ものはその代替品――そう思っている人は多いかもしれない。しかし、養殖はほんとうに天然の補完的な存在にすぎないのだろうか。
これが今回の特集の出発点だった。
考えてみれば、私たちが普段食べているお米や野菜、肉類のほとんどが人為的に育てられたもの。魚介類だけが「なんだ、養殖か……」と見下されるいわれはないはずである。
そもそも今の暮らしの基盤となる文化は、水をはじめとする自然の恵みを活かしつつ自分たちでこしらえてきた。ならば、水と密接にかかわる魚介類も、人が育てた養殖ものがスタンダードになってもおかしくはない。
そこで『水の文化』編集部は、日本人に根強い「天然信仰」に惑わされないようにしながら、養殖の実態を見ていった。すると、漁獲量や味をある程度コントロールできる養殖に対する期待値はどんどん大きくなった。「天然ものに近づけよう」と努力してきたはずの養殖が、実は天然ものにはない別の価値をすでにもちはじめているという実感も得た。
今号は〈変わりゆく養殖〉について、皆さんとともに考えていきたい。
朝焼けの海に浮かぶ作業船といけす。養殖業の人々は夜明けとともに動き出す
(大分県の臼杵湾にて)