かすかな硫黄の匂いを感じながら湯船に浸かると、なんともいえない幸福感に包まれる。温泉はなぜ心地よいのだろうか。
この国には古来「湯治」という文化がある。貴族も武将も庶民も温泉に浸かり、傷を癒やし、身も心もほぐした。時代が下ると、湯治から保養、そして観光へと温泉は徐々にレジャー的要素を強めていく。
しかし、今でも湯治や外湯(共同湯)を楽しむ文化はあり、混浴もなくならない。生活様式が大きく変わった現代で、温泉に浸かるという行為は昔の人たちと同じように楽しめる稀有なものなのかもしれない。
温泉の起源、湯治から観光地への移り変わり、現代の温泉地の試みなどを見つめ、地中から湧き出る温かい水=温泉が日本人を癒し、惹きつける根源的な力について探っていきたい。
人びとを惹きつけてやまない温泉。その魅力とはなにか(黒川温泉「山の宿 新明館」)